ひるねの時間

「超能力?」 96/11/3       飯島 かつあき

もしも、あなたが明日の朝目覚めたら、他人の意志を自由に操れるようになっていたらどうします?それも催眠術とかじゃなくて、念じるだけで。
そういえば、今朝課長に提出した報告書、どう見ても手落ちだらけなのに、「これで許して!」って思ったら課長何にも言わなかった。それにさっきだって課のアイドルのマユミさんが、いつもは絶対に私なんかにお茶を煎れてくれる事はないのに、「お茶が飲みたい。」と思っただけで煎れてくれた。
ひょっとしたら朝いつもぎりぎり乗れないいつもより1本早い電車に乗れたのも、今想うと僕を待っていてくれたような気がする。

そんな時は、ちょっとだけ疑ってみてください。あなたの隠された能力を。
でもって試してみてください。うまくいくかもしれませんよ。

そうだなー。試しに目の前に座っている高木君の右手を上げさせて見よう。っと高木君は右手を上げた。次に机の上のコーヒーを飲ませて見た。これも飲んだ。調子に乗ってボールペンを鼻の穴に入れさせて見た。これも期待通り入れた。それを見て一人でこそこそ笑ってしまった。
「やった!」これでこれからの人生なんだって思い通り。
でも、ちょっと待ってください。もしもあなたのほかにもあなたの身近に、同じ能力を持った人がいたらどうなるでしょう。
今、私が高木君の鼻にボールペンを突っ込ませたのだって、私がそう念じるように誰かが私の意志を操ったのかもしれません。いやひょっとしたらまだ未熟な私の力をその人が手助けしてくれたかもしれません。私がこんな力を手に入れたのだから、他にもそんな人がいたって何の不思議もありません。
でももし本当に身近にそんな人がいたら、そしてお互いに相手の意志を操ろうとしたらどうなるのでしょうか?
先に相手の意志を、捉えた方の意志が優先するのでしょうか?
それとも、力の強いほうが勝つのでしょうか?
お互いに相手に意志を乗っ取られ、矛盾が生じてお互いに意志を無くすかもしれません。もっと予測できない事態になるかもしれません。
考えているとまるで物理の研究をしているようです。物理も自然界に起こる事を、矛盾の無い様に自然界の法則にしたがって理論を突き詰めて行く学問です。でも物理の場合は大抵実験で理論を実証出来ますし、実証できないまでも、間接的にでも理論の整合性を確かめる事は出来ます。でも、私の場合は、相手がいない事には、実験のしようがありません。
ひょっとしたらこうやって私が悩んでいるのも、誰かに操られているのかも判りません。ひょっとしたら、この特別な能力も本当は無いのかもしれません。朝から誰かに操られてそう思い込んでいるだけなのかもしれません。
いったいなにが本当なんだ?
誰に相談すればいいんだ?

・・・・・

悩んでいる所で目が覚めました。昨日の夜書きかけた報告書が枕許に転がっていました。
はたして、マユミさんは、本当に僕にお茶を煎れてくれるだろうか?


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