「緊急事態」98/06/14
平成7年の大水害の時に、長野県内の或る水防担当者が故意に堤防を切るという事件が発生した。
大きな川の合流点に有ったその地域は、ちょうど堤防がV字型になっており、上流域で河川があふれたりすると、そのV字型の所にあふれた水が溜まって大きな池になってしまう可能性のある地形だった。
この時の降水量は、予想をはるかに越え、このV字型の地域の上流で小さな河川が軒並み決壊してしまった。その水はこの地域に流れ込み、V字型の堤防に塞き止められ、見る見る大きな池を作っていった。
その水位は、すぐ横を流れる千曲川よりも高くなってしまった。幸いこのV字型の地区には民家は少なく、ほとんどが水田だった。しかしこのまま放置すればもっと上流域に有る集落も次々に水に飲み込まれる事は確実だった。
水の勢いはポンプで汲み上げる程度ではどうしようもないものだった。
そこで地区の担当者は決断した。堤防を切って水を外に出すしかないと。
しかし、日本の法律では、いかなる理由が有ろうと、故意に河川の堤防を切る事は禁止されていた。誰にもその権限はなかった。
そこで考えた。試験的に堤防の内と外とをつなぐ、幅数十センチ程度の水路を堤防上に設け、水がどちらに流れるか調べことにした。その水路には、ビニールのシートを敷き、土嚢で固定し水の勢いで水路が広がらない様にしてあった。
しかし、水防担当者なら、そんな程度で堤防の崩壊を防ぐ事など出来ない事ぐらい、十分承知していたはずだ。もちろん、この水路に水を通したとたん、あっと言う間に堤防は崩れてしまった。まさに「蟻の一穴から」である。
そして、その結果水は引き多くの人の生命と財産が守られた。
しかし、こうした行政側の英断も、違法行為である。
だが、こういった違法行為を起こさなければ住民の生命と財産を守れないというのは、やはり法律に欠陥が有るとしか思えない。
たとえ、住民の生命と財産を守るためとはいえ、法律に反してもいいのかと言うと、それは本来法治国家である日本においては許されない行為のはずである。
先日の、沖縄における特租法の件においても、まさか県知事が政府に逆らうなどとは思わなかったのだろう。しかし、結局知事の反対にあい、国による民有地の不法占拠という事態を引き起こし、民主主義国家として、有ってはならない事をし、世界に恥をさらした。さらにこの事態を合法化するため、後追立法という法治国家ににおけるルール違反をも行い、恥の上塗りをしてしまった。これも、あらゆる不測の事態を想定しない日本の立法システムに問題がある証だ。
長野の件にしても、沖縄の件にしても緊急事態として片づけられている。しかしどちらも有ってはいけない事である。法律は人間の作ったものだから当然欠陥も有る。しかし日本の法律は先進国と言うわりには欠陥が多すぎる気がする。緊急事態だから、守れないからといって、守らなくて本当にいいのだろうか?やはり、どんな事態が起きても守れる法律をつくるよう心がけるべきである。
公共の事業を行う行政。しかし、本来政府自体も公共のものである。
私たちは、税金という会費を払って、個人単位では出来ない公共の部分を、行政に委ねているのだ。国土の開発にばかり力を注ぐ時代は、もう20年以上前に終わったはずである。
尊い税金と、優れた官僚の知恵の使い道は他に有るはずである。