ひるねの時間

「釣り人」98/07/06      卜部 知典

釣りと言うのは、レジャーの一つとして定着している。
しかし、なんとなく無益な殺生をしている気がしてしまう。
もちろん人間が生きていくための食糧を確保するための釣りは否定はしない。むしろ必要な事だと思う。
しかし、スポーツやレジャーとして行われる釣りは、少々納得が行かない。暇つぶしのために、魚達が傷つけられたり、命を奪われたりするのは可哀相な気がする。

それにである。心無い釣り人達がいろいろと自然破壊を繰り返している。
釣り糸や針を放置しそれに引っ掛かった魚や水鳥たちが怪我を負いそれがもとでどんどん死んでいく。中には非常に貴重な魚や鳥もいてしばしば大きな問題となっている。
それから、本来保護されている区域へも、幻の魚を求めてどんどん踏み込んでいく。そのめに周辺の自然は予想以上に崩れたりもしている。
それに主にブラックバスといった外国産の凶暴な魚を、釣りの面白味を増すためにわざと湖沼に放し、本来そこに住んでいた魚が全滅してしまったと言う話しも聞く、もちろんその中には天然記念物などの貴重な魚も含まれ、日本に本来有った環境が失われてしまいつつ有る。
こういった自然破壊は、いずれは釣りの出来る場所を少なくし自分達の楽しめる場所が無くなってしまうと言う事につながるのだが、そういった人たちは関心がないのだろうか?

また、立ち入り禁止の場所。例えばダム湖や灌漑用の池などフェンスを張り巡らせてあるような所に入り池に転落して事故死すると言う話しも良く聞く。
たとえ安全のためフェンスをしていても、心無い人たちによって破られ進入されてしまい、事故が起これば、安全管理に落ち度が有ったとして管理者が罰せられる場合もある。小さな子供が、こういった穴から中に入り、水死したと言う話しもよくある。
また先日、朝のテレビ番組であるダム湖から、釣り人によって頻繁にフェンスが破られその修復に手間と費用がかかると言ったニュースが有った。番組では、手間がかかるし危険だからやめてくれと締めていた。しかし、明らかにフェンスを破る事は器物破損であり、中に入る事は不法侵入である 。それに、この湖が上水用の水源だときいて更に驚いた。もしも、テロ組織や異常者が釣り人の振りをしてここに進入し、猛毒をここに撒いたらどうすると言うのだろうか?砒素や数十種類の化学物質などは、浄水場で検査されるが、それ以外の毒物は、素通りしてしまう可能性が有る。こういったものを長期に計画的に流されれば、そこの水を使う市民は、著しい害を被る事になるだろう。また、猛毒を,東京の水道用の全ての水源に撒かれたらどうすると言うのだろう。
浄水場で発見され、東京の水道はすべて止めざるを得なくなる。また汚染されたダムの水はそう簡単には浄化できないので、これらを処理しきるまでは、東京に水道水は供給できない。こうなれば、大都市東京を給水車だけでまかなうのは不可能で、日本の中枢都市は機能を失ってしまうだろう。こういった危機管理上の対策としてもこういった場所への立ち入りは問題が有る。
不法侵入を繰り返す心無い釣り人達は、こういった犯罪の隠れ蓑にもなりかねない。

しかし、釣り人はなにもこんな心無い人ばかりでは無いのも事実だ。
本当にスポーツやレジャーとして心得ていて、周辺の環境の整備や自然保護に力を尽くそうと努力している人も多い。
しかし、そういった人たちの努力の事など考えず、ただ気まま勝手に釣りをし、散らかして帰る人が多い事は嘆かわしい。

私は時々思う。よく仔猫が、食べもしない昆虫や小動物をつかまえてきて飼い主に見せる。これは野生だった頃の本能の一つで、将来の狩りの練習なんだそうだ。
人間も、本来雑食性の生き物で、文化の無かった頃は、それぞれ野生の小動物や魚を捕って食べなければならなかったのだろう。人間が無益で残虐な釣りをし、それを楽しいと感じるのは、案外そういった事の名残なのかもしれない。

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