ひるねの時間

「夢のあと」98/09/01      卜部 知典

かつて、巨大迷路というものがはやった事が有った。15年くらい前だろうか?
初めは、千葉県の君津砦(きみつとりで)など全国に数ヶ所しかなかった。
そのころは、どこも盛況だった。
しかしその後、その盛況ぶりを見て、全国で地方自治体なども資金を投入して作られていった。そして初めは物珍しかったものも、しだいにありふれた施設となり人気は無くなり、捨て去られていった。

1981年、神戸市でポートピアという地方博覧会が開かれた。大阪万国博覧会以後、低迷していた官主導の博覧会の人気に、主催は地方自治体ながらも多くの民間企業の出展を得る事が出来、大成功をおさめた。
しかし、その後全国各地で行われた同様の地方博覧会は、横浜の場合などを除き、殆ど“神戸の夢よ再び”とはいかなかった。

その後も、テーマパーク、リゾートホテル、巨大運動施設、コンサートホール、ドーム、どこかで話題になればすぐに全国の自治体が飛びついた。

例えばテーマパークなどは、何年かに一度、よく行く人でも年に数回程度、しかしそのほとんどは一生に1回しか行かないような場所が多い。だから、全国に数えるほどしかなくて、はじめて収益性が有るのであって、遊園地よりも多い数になってしまっては、収益性がある筈が無い。それなのにいまだにその数が増え、赤字経営を続けている所も多い。
また各地に、人口から見て絶対に不必要な巨大運動施設やコンサートホール、それに博物館などが多々有るようだ。その経営内容はやはり大きな赤字を税金で補助している場合が多い。それらの施設は県庁所在地や、中核となる都市に有れば良いのであって、隣接する過疎に苦しむ町村同士がお互いコンサートホールや博物館なんて建てる必要は無い筈だ。

村おこし、町おこしという言葉が聞かれて久しくなる。
テーマパークやリゾートホテルは,建設当初は多少なりとも人を集められるかもしれない。
コンサートホールや運動施設も、多少の人口の流出を押さえられるかもしれない。
しかし費用対効果で見れば無駄な場合が多いし、抜本的な過疎化対策にはなっていない。
最近流行のIターンをする人も、都会には無いのんびりとした環境や、自然、郷愁などに惹かれてやって来る。そして農業、酪農、漁業、林業、などの職業に就く人も多い。
中にはそういった環境の中で、芸術活動やSOHOにとりくむ人もいる。
テーマパークや巨大公共施設に惹かれて地方へ行ったという話はあまり聞かない。そういった物が必要なら都会に居た方が良いからだ。

リゾート法の夢のあと、全国に多大な借金だけを残して過ぎ去っていった巨大な廃虚がたくさん有る。 趣味の悪い巨大な涅槃像や、ホテル以外何も無い観光地など、到底常人には理解できないようなものも多い。

こんな物を作るくらいなら、もっと地域の良さをアピールした取り組みをするべきである。実際に、農業体験ツアー等を開いて都会から観光客を集めるうちにIターン者によって人口が増えている所もあると聞く。地方だから、田舎だから良いと言う事もたくさん有る。
結局は、巨費を投じて作られた無駄な施設達は、建設に伴う利権や、地方の自治体の自己満足を生むだけだ。

こうしたなか、今一番心配なのはJリーグだ。
現在18チーム、その下にも、まだたくさんのプロチームがある。そのすべてが赤字だと聞く。
もともと、試合数も、1試合に集められる観客の数も、プロ野球とは比べ物にならないほど少ない。
当初収入の柱に据えられていた広告料や放映権料も、あまり期待できない状況だ。
そんななか、チーム数だけがどんどん増えていく。いまだに地方では新たにJリーグを目指すチームが増えている。来年からはプロリーグを2部制にするらしい。12チームしかないプロ野球ですら、赤字のチームが有るというのに、このままどんどんチームを増やしつづけて本当にやっていけるのだろうか?私には無理が有るような気がする。
プロ野球はかつてチーム数が淘汰された時代が有った。
現状では、Jリーグはリーグそのものが淘汰されてしまっても不思議ではない状況だ。
かつてのJリーグ人気が過ぎて久しくなる。地方自治体の幹部や商工会議所、それに寂れた駅前商店街などの人が中心になって“我が街にもJリーグのチームを”と、必死になっている。それで、街に若い人や活気が戻ってくると信じているのだろうか?
未だこれらチームを支える人達は、Jリーグ人気が去った事に気付いていない様だが、この人達がいつかその事に気がつき、Jリーグでは村おこし町おこしは出来ないんだと気付いた時、Jリーグの各チーム、とりわけ巨大な1企業に支えられている訳ではない、地方の盛り上がりによって生れたチームは、唯一成功をおさめている鹿嶋を除いて、みんな一斉に捨て去られてしまうような気がする。かつての巨大迷路のように。
そのとき、過去のJリーグ人気によって生れた威信によって支えられているJリーグは、持ちこたえられるだろうか?

以前、テレビでバブルの残骸の写真を集めた展覧会の様子を見た事がある。はっきりとは覚えていないが多分タイトルはこうだった気がする“夢のあと”。


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