ひるねの時間

「川ざらい」99/01/15      卜部 知典

新潟市内に通船川と言う川が有る。
もともと新潟市は港町なので、市街地には運河網が発達していて、この通船川もそういった運河の一つだ。
この通船川に面する地域に沼垂と言う地区が有る。最近この地域の住民が、この通船川と、そこにつながる栗の木川の美化運動を始めた。他の都市の市街地を流れる川と同じくこの通船川も川底にヘドロが溜まり、川岸は投げ捨てられたゴミが散乱しているからだ。

新潟の歴史は、川と共に有った。太古の昔、本州の日本海側に有った大きな入り江に、長野県方面からは信濃川が、福島県方面からは阿賀野川が大量の土砂を運んできた。これによって次第に埋められて行き、今日の新潟平野を形成した。
そういった大きな川の河口に出来た湿地と日本海の強い海風によって出来た砂丘しか無かった土地を先人たちが開拓して新潟市は出来た。
その為、新潟市は度々洪水に襲われる。昨年も秋口に全国的に被害をもたらした台風などの影響で、2度ほど市内の多くの地域が冠水する被害が出た。
この時、市内の低地を流れる通船川にも当然大量の水が流れ込んだ。川底のへどろも押し流してしまいそうなほどの大量の水がだ。
先日そんな通船川の川底のゴミを拾い上げている集団を見つけた。大人数で丁寧に一個ずつ拾い集めていた。「ボランティアの人にしてはずいぶんと大掛かりだな。」と、思いよく見てみると新潟県警の人たちだった。

去年8月のアジ化ナトリウム混入事件の捜査は、和歌山のひ素カレー事件に続いて発生した凶悪事件として記憶に新しいところだ。大人数の警官はその捜査をしているところだった。
事件から半年あまり。2度の洪水で川底が流され、美化運動によって奇麗にされた川を今更なぜ川ざらいなのか?
通常こういった事件が発生した場合。犯人につながる証拠集めのため、こういったすぐ横を流れる川などの捜索は事件発生直後にするはずだ。なぜなら、急いで逃げる犯人が、もっとも手っ取り早く証拠を隠滅できる場所だからだ。それを今更やっていると言う事は、発生当時に手をつけていなかったと言う事なのだろうか?
それに、今ごろ始めたと言うのは、去年秋に事件現場敷地内に有る焼却炉を調べていた時同様、事件の起きた会社の従業員から何か供述が得られたからなのだろうが、だがしかし、たとえ、この通船川の川底からアジ化ナトリウムのビンが出てきて、そこにその従業員の指紋がついていたとしても、もともと、現場の社内の鍵のかからない薬棚に置かれていたビンなのだから、他の薬品を探す時や、掃除の時などに触った可能性も有るし、物的証拠にはならない。それに、敷地横の川では、例え供述通りに出てきたとしても、単純すぎて犯人しか知り得ない事実とは言えない。

警察の操作に対してあまり税金の無駄遣いとは言いたくない。一見そう見える事から意外な事実が浮かびあがる事も多いからだ。

しかし、素人目に見てもあまりにもお粗末すぎる捜査は、不信感を抱かずに入られない。
去年12月の初め、警察は、このアジ化ナトリウム混入事件の解決を早々と越年すると発表した。そのあと、例年通りの歳末の交通安全の取り締まりを県下で一斉に行った。もしかしたら、こちらに人員を割く為にアジ化ナトリウム混入事件の方までは手がまわらなかったのだろうか?とも疑いたくなる。
犯人の目的は何か分からない。しかし警察がこんな風では、甘く見られてしまい、同様の事件が再発しかねない。
この時は確かに死者は出なかった。しかし、出ていても不思議ではない事件だった。被害があまり大きくなかったからと言って、軽視せず、もっとまじめに取り組んでほしい。

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