ひるねの時間

「メダカの学校」99/05/23      卜部 知典

めーだーかーの学校は・・・と童謡にも歌われるほど、馴染みの深い生物のメダカだが、意外と見たことの無い人が多い。
小さい魚で川にすんでいると言うことは知っていても、あまりどんな形だとか、どんな色だとか知らないものだ。
私も、生まれてから30年以上なるが、まだ一度も実物を見たことが無い。
どうも、私の生まれ育った兵庫県の伊丹市や尼崎市にはその生息地はないようだ。
子供の頃から、近所の用水路でザリガニやオタマジャクシは捕まえたことがあるが、メダカは見たことが無かった。
親にメダカの事を聞いても、その辺の川にいくらでも居るだろうと言う。実際、川には小さな魚は居るのだが、どうもそれらはみんなフナ等の稚魚らしく、メダカだといえるものは見たことが無かった。それでも、「たまたま運悪く見ることが出来なかった。」程度にしか考えていなかった。
アユやカジカのように清流にしか住めない魚でもなく、まさか、本当に居なくなっていたとは思わなかった。

先日、環境庁が、絶滅の恐れの有る生物として、メダカをリストに載せた。
農薬や生活廃水で侵された日本の川にはもうすめなくなっている。
事態はそこまで深刻だったのだ。

かつてこれと同じようなことがあった。
日本中どこにでも居た野鳥。トキ。
田んぼに住むドジョウなどの小魚を食べて生きていたが、農薬の普及に伴い、小魚が住めなくなり、餌の供給源を失ったトキたちは次々と姿を消して行った。
乱獲も減少した大きな原因と言われているが、それでも昔は捕っても捕っても減ることなど無いくらい居たそうだ。
しかし、農薬の普及と言う大きな環境の変化には、ついていくことが出来なかったのだ。
昔の人は、まさかトキなんかが絶滅するなんて事は、考えられなかっただろう。
だからあまり見かけなくなっても、「たまたま見かけないだけで、山や田園地帯に行けば幾らでも居るだろう。」程度に考えていたに違いない。

しかし実際に調査してみると、佐渡ヶ島と能登半島に数羽しか残っていないことが判った。
もう、この時点では手遅れだったのかもしれない。
国や自然保護団体が、トキの保護を訴えるようになった頃には、もう私達の手ではどうしようもない状況になっていた。

特別天然記念物でも有るトキは、最後に野生のものが確認された佐渡ヶ島の有る新潟県の県の鳥に指定されている。
偶然にも、私の生まれ育った兵庫県の県の鳥も、特別天然記念物に指定されている。コウノトリだ。と言っても、日本にコウノトリが住んでいること自体知らない人も多いのではないだろうか?
日本には、同じようにあまり知られていないながらも、絶滅の危機にさらされている動物や植物がまだまだたくさん有る。
そう行った生き物達はいずれ人知れず姿を消して行くのだろう。

童謡とは、小さな子供が歌というものに親しむ為に有るもので、そのため、そこに登場する生き物や、事柄は、誰にとっても親しみのあるものばかりだ。
その童謡の中でも、特に代表的な歌の主役として歌われているメダカが、図鑑の写真や博物館の標本でしか見ることが出来なくなったら、それはとても悲しいことではないでしょうか。

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