ひるねの時間

「チャンス」99/10/24      卜部 知典

アメリカの議会がCTBT批准を拒否した。
アメリカが、世界でもっとも影響力の有る国の一つであり、また、核兵器が全世界の安全と大きく係わっているものである以上、世界のありとあらゆる国に影響を与える出来事である。その為、日本をはじめとする世界各国からは、非難の声が上がっている。
このことによって、それ以外の核兵器保有国に対しても、核開発を進める大儀名文を与えることにもなりかねない。
これは、世界唯一の被爆国日本にとっても忌々しき事態だ。
しかし、有る意味、考えようによっては、日本と言う国にとっての、大きなチャンスかもしれない。

確かに、アメリカという国は、この20世紀、常に世界のリーダーだった。その強大な軍事力と、安定した経済力、そして、それらを如何無く発揮する為の、迅速かつ的確な行動力。
しかし、それらは所詮すべて自国の利益に収束するものだった。その為、軍事面や経済面で関係の薄い国からは、常に敵視されてきたことも事実だ。
もちろん、一国の政府が、純粋に他国の利益のために努力すると言うようなことは有り得ない。ただ、アメリカの政策が、おおむね世界の安定につながっていることは事実だ。
ただそれは、軍事力に裏打ちされたものに他ならない。
アメリカは、その経済力により、巧みに他国へ軍事力の網を広げ、その軍事力の傘を被せる事により、経済圏を拡大してきた。そして、冷戦終結後、全世界をほぼ傘下におさめた今となっては、逆に平和の名の下、敵対する幾つかの国の軍事力を抑えることによって、覇権を保とうとした。
なぜなら、これ以上の軍事費の拡大は、アメリカの経済を再び圧迫するものになりかねないからだ。

しかし、CTBT批准に失敗したことで、アメリカの軍縮路線による地位の維持というやり方に翳りが見えた。
やはり、核兵器によって築かれた地位は、核兵器無しには守り抜けないのだろうか?

ならば、核兵器廃絶の盟主となれるのは、世界唯一の被爆国である日本以外には無いと言うことになる。
核兵器廃絶はすべての国々の願いであることは間違い無い。
何故なら核を保有するいかなる国も、戦争に核兵器を使用することは、自国の破滅をも意味するからだ。
日本という国は、戦後、アメリカを初めとする他国の動向を常に気にしてきた。自ら率先してなにかをしたことの無い国だ。しかし、経済大国となり、アジアのリーダー的な立場に立った 今、それでは通用しないのではないだろうか?

大国アメリカが核軍縮を成し得ない今、核兵器廃絶運動を通して、世界のなかでリーダーシップを発揮して行くと言うのは、被爆国の当然の勤めであろう。
そして、大国の影で利益だけを得て、矢面には立たないと言うゆがんだ外交姿勢を改めるべきだろう。
その為には、国際舞台において発言し、責任も取り、アメリカの核の傘からも抜け出さなければならない。アメリカが核兵器を使った時点で、一方的に同盟関係を破棄するくらいの事は、宣言しておかなければならないだろう。

外交の苦手な国日本が、一流の国となるチャンスではないだろうか?

20世紀は、軍事力と経済力による統治の成された世紀だった。
21世紀は、平和による安定のもたらされることを願う。

目次へ戻る!